日本人カメラマンの見た幕末明治 (レンズが撮らえた)

上野彦馬が撮ったトーマス・グラバーの肖像写真からスタートします。下岡蓮杖や小川一眞の写真も登場します。本書の表紙は、小川一眞が明治後期に撮った「雪の日の外出姿の女性(9p)」で、見事な構図を示しています。写真家としてのセンスが伝わる写真なのは間違いありません。13pには「亀戸天神の藤棚」の彩色写真があり、今も心字池にかかる太鼓橋と艶やかな藤の花は、亀戸天神の見どころです。下段の熊本城の遠景も同様で、震災の被害にあいましたが、古写真は現代の景観とのつながりを確認できるツールでもあるのです。15pの「赤玉ポートワイン」のポスターは、「日本初のヌードポスター」と銘打たれていますが、有名なポスターです。女優の松島栄美子がモデルとのこと。118pには浅草の十二階として親しまれた凌雲閣の倒壊前の写真がありました。浅草の名所のみならず、珍しい高層建築の代表の姿を確認できるのも古写真の効用でしょう。126pには、焼失前の金閣寺の姿や、今も同じ景観を保っている法隆寺の境内の写真など、見飽きません。140pの「小川一眞による文化財調査写真と美術出版物」などの論文も参考になります。渡米時代の小川一眞のポートレイトもあり、学術的な意味でも貴重な出版だと言えるでしょう。彼らがこれだけの写真を残さなかったら、当時の日本の姿や日本人を知る術が大幅に制限されたことは容易に伺えます。当時の人がまるでそこにいるかのように残っているのも写真があればこそだと思います。歴史上の人物との遭遇は写真資料の醍醐味でしょう。次から次へと登場する人物や建物、景色と見飽きません。歴史の可視化の醍醐味を「レンズが撮らえた」シリーズでずっと味わってきました。他の書でも見たことのある写真も当然掲載してあるわけですが、やはり何回見ても不思議の国の日本の姿は現代人の心を捉えます。子供の頃、H.G.ウェルズの『タイムマシン』を読んで、自由に未来へも過去へもいける装置に夢と憧れを抱きましたが、そんなタイムマシンがなくても、百数十年前の幕末維新の時代へ連れていってくれます。これらの写真には、不思議の国・日本、西洋人から見た「東洋の神秘」ともいえる人々の日常の姿が、現代に伝わってきます。今から百数十年以上前の日本の姿を知るには古写真をたどるしかありません。